先日、南日本新聞の日曜書評面を見ていたところ垣根涼介氏の新刊が載っていた。「私とは、いったい何者だろう。」という書き出しが、直前に購入した2冊「ふる」「俺俺」とリンクする気がして、即amazonにて注文。
物語は建築士である主人公・太刀川要が深夜にドライブしていたところ突然現れた大型犬(のちにジョンという名前が付く)を跳ねてしまい、動物病院に運びこみ、ひょんなことから自宅で面倒を見ることになるのだが、実はジョンには隠された秘密があった。全4章構成で基本的に各章とも主人公の視点でのストーリーの後に、少しだけジョンのモノローグが足されている。
垣根涼介氏といえばテレビドラマにもなった『君たちに明日はない (新潮文庫)』くらいしか読んだことはないのだが、主人公が頭が良くて仕事はできるんだけどやや世間を斜めに見ていたりする点や、飄々としている感じが好きだ。
また、仕事が出来るけど奥ゆかしい(男性の立て方を知っている)女性が恋人役で出てくるのもいい(こんなこと書いたら怒られるな)。その女性が歳上なのも私の好みと合っている(以前から27歳~35歳の女性がどストライクだと公言してきたがいよいよ自分も三十路になる時が来てしまった)。そして、自分の想いを素直に受け取ってもらえない歯痒さよ。
上記は『君たちは...』でも『狛犬ジョンの...』でも共通している。
『狛犬ジョンの…』に手が伸びたのはおそらく私の大学時代のニックネームが「じょん」だったこともあるだろう。あれは、入学直後のある日、歓迎会を兼ねた花見の行われる公園へ向かっていた時のこと、私は「じゅん」という名の友人と並んで歩いていた。我らの後方には、傍若無人のT。Tはまず、隣の「じゅん」に向かって呼びかけた「じゅん!」。まぁ、じゅんだからね。じゅんって呼ぶよね。続いて私に呼びかけた「じょん!」。そうして私はそれからの4年間「じょん」と呼ばれることになったのである。未だに大学の頃の友人は私の本名を知らない。能瀬だし博之なのに「じょん」。意味わかんないだろ?でも、なんだかんだ言って気に入ってます。
あぁ、いつものように横道に逸れすぎてしまった。
本書で印象に残った部分を幾つか
一人だけの世界に、孤独は存在しない。
他者とのかかわりのないところに、疎外感は生まれない。(p.108)
他人と関わることを知らなければ孤独を感じることはない。全く知らない状態では、欲することはない。しかし、ひと度知ってしまえば、そこから完全には抜け出せなくなってしまう。他人と親密になればなるほど、孤独を感じてしまうのはどうしてだろう。
おれが呼び捨てにするのに対して、麻子はいつも、要くん、だ。
この切なさ、分かるだろうか。(p.178)
・・・分かる。
しかし人間、その人生のほとんどの局面において、自分のほんとうの気持ちなど実は分かっていないものだ。
(p.355)
"ほんとうの気持ち"とはなんだろうか。人の気持ちは本人しか分からないとよく言うけれど、実際は本人にも分からないことの方が多いのではないだろうか。分かっていないことを分かっているフリをして生きているのではないだろうか。
結局、本当の気持ちなんて存在しないのと同じように、本当の自分も存在しないのだ。本当の自分なんて探さなくても、それが本当だろうが嘘だろうが、ここに自分がいるという事実しかないのではないか。そんなことを本書を読んで改めて考えさせられた。
2012年12月20日 初版発行
出版社:光文社
361ページ
ISBN-10:4334928609
ISBN-13:978-4334928605
装画:伊藤彰剛
装幀:鈴木久美