南日本新聞 書評欄「郷土発おすすめ」

樋口強 『津波もがんも笑いで越えて』

投稿日:2016年3月20日 更新日:

(2016年3月20日南日本新聞 書評欄「郷土発おすすめ」)

生きる喜び創作落語に

 東京の深川で年に1度開催される落語会がある。「いのちの落語会独演会」と銘打たれ、がん患者とその家族だけが入場できる特別な場だ。主催するのは創作落語に取り組む著者。会社員だった1996年、肺小細胞がんが見つかった。当時「3年生存率5%、5年はデータがない」と言われながらも手術・抗がん剤治療を経て克服。今も薬の副作用による全身のしびれと付き合いながら、自分と同じようにがんで苦しむ人たちを励まそうとこの会を開いている。

これまで自らのがん体験から笑いを生み出してきた彼が新たに挑んだテーマは「津波とがん」だ。東日本大震災発生から1年と9カ月が過ぎた2012年末に岩手県大船渡市の仮設住宅集会場で行われた落語会で著者は2人の女性と出会う。彼女たちはともに津波とがんの二重の苦しみを背負っていた。それでも懸命に生きようとする2人の姿を落語を通して全国に届けたいという思いが本書に込められている。

本書は全5章で構成。前述の創作落語の紙上独演会に始まり、続いて主人公のモデルとなった2人の女性の半生がつづられている。「震災を笑いものにするんですか?」とも言われたが、3年もの取材を通して信頼関係を結んできた。片や女手一つで子育てをしながら子宮がんと闘い津波で母親を亡くした二児の母。片や夫をがんで亡くし自身は乳がんを乗り越えたが震災で大切な思い出を流された80代。2人が体験した、震災直後の避難所で緊張のなか生まれた笑いや、震災から時間が経ち笑って過ごせるようになった様子が落語という方法で、よりリアリティーを帯びた形で表現されている。

著者の口から発せられる「生きて何がしたいのか」「どうせ生きるなら笑って生きようよ」というメッセージには、がんや震災を経験していなくとも勇気づけられるはず。私も著者のように誰かを笑わせるのが一番の喜びだ。自分も大切な人も笑っていられるようなそんな人生にしたいものだ。

 

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