この季節がやってまいりました。鹿児島演劇見本市。今年は過去最多の10団体の参加。昨年、7団体×30分で途中から疲れて集中できなかったので、10団体ともなると心配していたんですが、1団体20分だったこともあり最後まで楽しく観劇できました。
以下が、当日の上演順。
1.アクターズファクトリー鹿児島 やるせなスナイパー(児玉剛・作)
2.劇団CLOVER YOKOの話(劇団CLOVER・作)
3.演劇ジャッド会チームフルエ 昨日の夢(古江優子・作)
4.演劇集団「非常口」 汀、微熱の宵(島田佳代・作)
5.鹿児島高等学校演劇部 水鏡(谷崎淳子・作)
6.演劇ユニット「まちねとそわれ」 空蝉にさよなら(福満みこと・作)
7.演劇ユニット火曜市 オウム先生(田中ロイジ・作)
8.SATSUMA OG’S 薩摩怪盗ルパン団(SATSUMA OG’S・作)
9.劇団「ぴんと。」 トラとウマとバス(鈴木ひろむ、川邊あゆみ・作)
10.演劇集団「宇宙水槽」 ユメオチ(宮田晃志・作)
昨年は司会が前に立っての進行でしたが、今年はバックでのアナウンスで淡々と進んで行きました。しょっぱな噛んでいたのが可愛らしい。
以下、気になった劇団のみ感想を。
(※あくまで主観で書いております。以下に記載してないからといって決してつまらないわけではありませんし、ひょっとすると貴方にピッタリの劇団の可能性もございます。予めご了承の上、お読みください。・・・いや、このブログにそんな影響力ないか)
演劇集団非常口『汀、微熱の宵』
以前から観てみたいと思っていた劇団。期待感とのギャップで言えば、一番驚かされた。何より、間が私の好みだった。独特の世界観でそれまでの会場の雰囲気を一変させ、地方の劇団の力を見せつけたのではないだろうか。てっきり島田さんが演出していると思い「さすがは九州戯曲賞大賞は違うな」と思っていたところ、演出は春田さんという方でまた驚かされた。父親役の西さん、母親役の石神さんといったベテランの堂々たる演技と、息子役の白石さんの初々しい演技の共演。中岡さん(てっきりエリザベートさんかと思ってた)の美しさと対照的な狂気。衣装の色使いや、独特な小道具。完全にファンになってしまった。
個人的に今回のMVPは石神さんなのだけど、終演後、ホールの外で観察していたら、なんだか小さく縮こまってペコペコしていて、演技とのギャップにさらにファンになってしまった。
あと、代表の島田さんが今年から鹿児島演劇協議会の代表理事のため、最初と最後に挨拶をされたのだが、戯曲賞大賞を取るような方なのに饒舌な感じではなく、一つ一つ言葉を大事に搾り出すような話し方に非常に好感を覚えた。
四畳半の翅音まではまだ時間があるけれども、目が離せない劇団の一つになった。とりあえず、「睡敲、銀河鉄道の夜」は伊佐まで観に行こうと思う。
鹿児島高等学校演劇部『水鏡』
鹿児島高校の演劇部のすごさは以前から何となく耳にしていた。が、そのすごさは予想以上だった。それは私の知っている高校演劇ではなかった。
東北大震災をテーマにする勇気。ストーリーの重さに負けない、感情の機微の表現。言葉の選び方。先生の力なのか、はたまた生徒の力なのかは分からないが、さすが全国大会で優秀賞を受賞するだけのことはある。おそらく涙された方が一番多かったのではないでしょうか。これだけの実力があるんだからもっとたくさんの人に観てほしい。公演のアナウンスとかもっと大体的にできないものでしょうか?
あと、パンフ見て部員の多さにビックリ。23名って高校の演劇部にしては多くない?まぁ全国行くぐらいだから当たり前かもしれないけど、以前聞いた話によると卒業生で演劇続ける割合はそんなに多くないらしい。鹿児島の演劇のためにも是非とも力のある若い人に演劇を続けていただきたいものである。
なにはともあれ、お母さん役の子はまさにお母さんだったよなぁ。
演劇ユニット「まちねとそわれ」『空蝉にさよなら』
鹿大テアトル火山団OB折田さんと福満さんの2人組ユニット。2人の演技はテアトルの『エゴ・サーチ』で1回観ただけ。その節は感想サボりまして申し訳ございませんでしたm(__)m その時のイメージもあって、てっきり折田さんが演出してるのかと思ったら、作も演出もお2人以外。まさに今うかがったところによると「2人とも役者がしたいため今回こういう形になった」とのこと。つまり、ユニットとしてのポリシーは演技から見えてくるはず。
と、その前にユニット名もさることながら(ユニット名の由来はこちらを参照)、『空蝉にさよなら』というタイトルの不思議さ。空蝉を引いてみると「この世に生きている人間」とのこと。あらすじはバイク事故で愛する弟を亡くした姉は弟のことを忘れられず、誰もいないアパートを訪ねる。すると、自分のためにエアコンが付いたりすることに弟の存在を感じ、毎日訪れてはご飯を作ったり泊まったり。弟も姉には自分がいなくてはという想いから成仏できずにいる。そんな2人の別れを描いた作品。
つまり、「この世に生きている人間」にさよならということは弟側に立ったタイトルと言えるだろう。最後のシーンで姉が作ってくれた肉じゃがを食べるシーンに姉との別れを覚悟した弟の複雑な気持ちが表現されていた。個人的にはアルミホイルで隠して食べたフリをするのではなく、実際に食べるか、アルミホイルはなしにしてほしかった。それは食べているように見えなかったということではなく、食べているときの表情が見たかったから。
そういえば、弟が死んだことは語られたが、バイク事故で死んだことは語られていないはず。しかし、姉弟の会話の中で「私もバイクの免許取ろうかなぁ」という姉の言葉に対する弟の拒絶や、ハンガーに掛けられたライダースジャケットがそれを表していて、説明臭くないところが良かった。
折田さんはエゴ・サーチの印象でキザなイメージしかなかったのでけども、今回のような繊細な役もできるんだなと、もっと色んな芝居が観てみたいなと思った。福満さんは女子力が高くて座り方とか喋り方とかすごくかわいかった(笑)エゴ・サーチの時よりも落ち着いていて上手くなった印象。
姉の彼役だった花牟礼さんはなにより声がいい。とてもいい。
そして、配達人の福満(み)さんには驚かされる。エゴ・サーチにしても、今回にしてもその役柄のせいもあるんだけれども小さい体をハンデにさせないほどの存在感がある。そして演技もさることながら今回の作品を書いたのは彼女だし、普段はテアトルで演出もしている。まったくもって末恐ろしい女子大生である。
演劇ユニット火曜市『オウム先生』
昨年の見本市で1、2を争う爆笑をさらっていた『オウム先輩』に続く第2弾。パンフを見た時点で「いいかげんにしろよ」と思うほどの悪ふざけぶり。
まちそわまで3つ続いてのataticな演技で凪になっていた会場に間違いなく爆笑の荒波を巻き起こしていた。
昨年はさんざんふざけ倒していた田中(妻)はさすがに妊婦なので舞台には上がらないもののその作品・演出でふざけ倒し、旦那は旦那で客に話しかけたりアドリブ入れたり、他の劇団では観られないのびのびっぷり。そして田中(妻)の実の弟を舞台に引きずり出し、来年は生まれたばかりの赤子を舞台に上げるに違いないと思わざるを得ない。
何より、櫻木アヤネさんのメガネがたまらん。ってか、かわいすぎる。訛った喋りもたまらん。もうずっと、櫻木さんしか観てなかった。
散々ふざけてるって言っといてなんですが、馬鹿なことやってるけど、本当にお客さんのこと考えて作ってるよなぁとつくづく思う。設定自体もそうだし、台詞、小道具、動き。間違いなく、会場のほとんどの人にまた観たいと思わせた劇団の一つではないでしょうか。
twitterを見てて「オウム先生」って書き込みよりも「ファミチキ」というツイートが目に付きその影響力に驚かされました。
劇団ぴんと。『トラとウマとバス』
今回が初公演の劇団。出演の3人の共演は昨年のノヴァの刺身の公演『イヌと肉』で実現している。正直、テイストがノヴァの刺身に似ていた。
主宰、演出が川邊さんで今回こういう芝居になったことを意外に感じた。劇団LOKEの『星空レシピ』と前出の『イヌと肉』でしか彼女の演技は観ていないが、こういうことがしたかったんだなと。どうでもいいけど、川邊さんの演技が深津絵里っぽくてかわいかった。
ノヴァにしてもそうだけど、こういったちょっとわかりにくい感じの芝居って好き嫌い分かれると思うのだけど、パンフに「私達のピントで作った作品を貴方のピントで受け取って欲しい」という記載がありこれぞ演劇という言葉にとても共感した。
福迫さんは『イヌと肉』が初舞台で今回が2作目だったはずなのに、あの落ち着き様と表現力にやっぱり芸術家は違うなぁと思わざるを得なかった。
演劇集団「宇宙水槽」『ユメオチ』
おそらく今回の見本市でファンを増やした劇団のひとつ。劇団宮田から無事改名し、本番に至りました。以前、演劇関係の知り合いに「あいつは熱があるから一緒にやってて楽しい」と言わせていた宮田くん。正直、今までハンサム役が多いくらいの印象しかなかったのですが、今回の『ユメオチ』で彼のやりたいことっていうのが見えた気がしました。
スピード感ある展開の中で要所要所で笑いを取り、腹筋善之介顔負けのマイム・一人芝居を繰り出し、途中シリアス、終盤で救いようのないほど落としておいて結局ユメオチっていう。最後はちょっと声張りすぎて客席引いてた感あったけど(笑)
戦隊モノのところではバックの色がカラフルに変わってたのが良かった。
噂のポールくんを見れてよかった。ポールくんの寝ぐせが良かった。
ってか、劇団宮田いいわ。宮田くんの熱量が伝わってきて応援したくなった。ってか、昨日久しぶりに魔王物語物語(ゲーム)再開した。
メンバーもいい子ばっかりね。パンフもくさいこと書いてあるけど宮田くんぽくていいよね。頑張ってね。
以上
気になった劇団の感想でした。全体としては、10団体に増えたこともあり、また作風の幅もあってとても楽しめました。ただ、鹿児島の劇団を知ってもらいファンを増やすという目的があるとすれば選考を行うべきだったのでは?と思うところもありました。というのも、お客さん不在の芝居がいくつか目についたからです。確かに演じる人口が増えることで、間違いなくお客さんも増えるとは思いますが、今回の様な状況だとファンを減らすことにもなりかねないのではないかと。稽古をされて舞台に上がっているのは分かりますが、だからといってお客さんにも他の演者の皆さんにも失礼じゃないかと思うような芝居があったように感じました。
ただ、私が好きな芝居があるように、そういった芝居が好きな人もいるでしょうから、そういった意味ではそういう芝居もひとつの芝居なのかもしれませんが。
あんまり、こういうことばっか言っててもアレなんで、話変えますが、鹿大テアトル頑張ってますね。鹿児島には大学が4つあるものの演劇部は鹿大にしかなく、あまり幅が広がらないと言われておりますが、今回の「まちねとそわれ」に「宇宙水槽」のように各々が新しいユニット作って自分のやりたいことやると、劇団も増え、観る側の選択肢も広がり鹿児島の演劇が発展していくんじゃないかと期待しております。
ただ、あんまり劇団増えて近い時期に公演されると、小さい子どもがいる私なんかは全部観に行けないので、できるだけ分散してくださいね。あと、公演の案内は2ヶ月前にはしていただきたい。2日前とかに案内されても行けないもの。すげー行きたいのに。今年は、新しい劇団やら県外の劇団やらこれからの季節、公演目白押しですね。
それではまた、会場でお会いしましょう。
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7/17追記
えーっと、やっぱり書いておきたいので簡単に。
私が一番問題だと思っているのは、おもしろいとかおもしろくないとか、お客さんのために芝居しろとかそういうことではありません。おもしろいと思うものは人それぞれでしょうし、お金を払って観るに耐えるものであればご自分のために(もしくは劇団のために)演っていただいても全然構いません。
ただ「鹿児島の演劇のいま」を伝えるはずの見本市で「鹿児島の演劇のいま」とはとうてい言えないようなものが披露され、それが観に来たお客さんに「鹿児島の演劇のいま」だと思われることが嫌なのです。
また、観客として「見本市でしか観られないもの(時間が短いからこそできること)」を観たいのに、「20分程度だったら出てみるか」「見本市だったらこの程度でいいんじゃね?」となってるのではないかと。
本当に素晴らしい芝居もたくさんあったので、感想を見ると「本公演絶対行く」「見本市観て16日の高校演劇観てきた」って方も多いのがなによりの救いですが、私が全く鹿児島の演劇観るのが初めてで、4時間もかけていい加減なものだけ観させられたら絶対二度と観に行かないなぁと。
それぐらいの責任が見本市にはあるんじゃないかなぁと思う次第です。
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20120714鹿児島演劇見本市2012 - Togetter
http://togetter.com/li/339046
【感想】鹿児島演劇見本市2011
https://blog.nosehiroyuki.com/?p=618