南日本新聞 書評欄「郷土発おすすめ」 能瀬と読書

033 花井 裕一郎『はなぼん ~わくわく演出マネジメント』 

(2013年5月12日南日本新聞 書評欄「郷土発おすすめ」)

日本一の図書館の軌跡

1歳の息子を連れて近所の図書館を訪れた時のこと。絵本コーナーで読み聞かせをしていると、近くの子どもが泣きだした。まもなく図書館の職員が母親に近寄り「泣きやまないようでしたら外にお願いします」と伝えた。私も育メンとして人ごととは思えず「子育て中でも安心して行ける図書館はないものか」と考えさせられた。

先の職員の言葉は「図書館は静かに読書するための場所」という従来のイメージから発せられたものであろう。そんな図書館像を覆した施設が、ライブラリー・オブ・ザ・イヤー2011大賞を受賞した長野県の小布施町立図書館「まちとしょテラソ」だ。本書は映像演出家だった著者が、公募によって館長となり、住民と一緒に館を創り上げていった軌跡の記録である。

人口1万1千ほどの小さな町の図書館がなぜ受賞できたのか。その理由の1つは「図書館らしくない」という点にある。例えば、館内は遮る壁のないワンフロアとなっており、おしゃべりOK。声量を気にせず読み聞かせできるようラジオが流れていて、自由に飲食できるコーナーもある。また、図書館に来たことがない人にも足を運んでもらおうと、一箱古本市やアートワークショップなど積極的に企画している。これらは、図書館が「無料貸本屋」から脱却し「交流と創造を楽しむ、文化の拠点」になるための取り組みである。

「静かに読書をする場所」という意見は根強く対立もあった。だが、著者は「町民が主役の図書館」を目標に、住民の声を聞き議論を尽くした。また演出家として、開館式典における600人でのくす玉割りや公式キャラ制作、町の功労者を未来へ伝えるアーカイブ「小布施人百選」など、工夫を凝らし地域を巻き込んでいった。

読書のためではなく、わくわくするための図書館。本書にはそんな図書館を創るためのヒントが盛り沢山だ。図書館に限らず、今後の地方の公共施設の可能性を考えるきっかけになる1冊。

2013年1月29日 初版発行
出版社:文屋
256ページ
ISBN-10:4990555279
ISBN-13:978-4990555276
写真:大井川茂
ブックデザイン:鈴木成一デザイン室

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