谷山で仕事だったので、久しぶりに和田屋で昼食をとった。しょうゆラーメン700円。久しぶりと言っても前には1度しか来たことはない。1度しか来たことがないのだが味だけで言えば1番好きなラーメン屋かもしれない。
今回、和田屋に行こうと思ったのは、先日参加した「生涯現役社会の実現に向けた企業シンポジウム」にて積極的に70歳雇用に取り組んでいる企業として登壇していた中の1つが和田屋さんだったからである。和田屋では「高齢者が多いので注文後時間がかかります」と貼り紙されていたこともあるらしく、前回来た時には気付かなかったが確かに従業員10名弱のうち2名以外は年配の方だった。
高齢者雇用といえば、10月31日付けの南日本新聞によると
- 希望すれば全員が少なくとも65歳まで働ける企業の割合は66.5%。前年に比べ17.7ポイント上昇。(6月1日時点の雇用状況調査。厚生労働省30日発表)
- 鹿児島県は19.2ポイント増の74.3%。
- 4月施行の改正高年齢者雇用安定法で、希望者全員に対する65歳までの段階的な雇用確保が企業に義務付けられ、シニア社員の経験や能力を積極的に活用しようとする企業が増えた。
と今年度に入って65歳まで働ける企業が増えているとのこと。
高年齢者雇用安定法の改正の目的の1つとして、60歳から64歳に支給される「特別支給の老齢厚生年金」の「定額部分」の引き上げに伴い、無収入期間を解消することがあげられる。賃金の高い高齢者を引き続き雇うことにより若年者の雇用が抑制されるなど批判も多く、60歳定年とし再雇用で65歳まで雇用するが賃金は定年時の給与の◯%カットという方式を取るなど企業側は対応している現状であろう。
さて、うちの会社はど田舎にある。24,109人の人口(平成22年国勢調査、以下同じ)の内、65歳以上が35.4%。労働力人口は12,272人しかいない。若者はほとんど外に出て行ってしまうため新卒での採用よりも中途採用の方が多いが、現場からは「若い人の方が」と言われる。しかし、今後はどんどん人手不足になっていくわけで、「年齢云々ではなくそれぞれが役割を果たせる会社に」ということと「できるだけ長く勤めてもらえるような職場環境を」ということを常々伝えている。
とはいえ、そう簡単な問題ではない。何かいい方法はないものかと考えていたところ先のシンポジウムの登壇者の中に人口39,538(平成25年4月現在)の曽於市を本拠とする医療法人愛誠会 昭南病院の名前を見つけ、是非話を聞いてみようと参加を決めたわけである。
昭南病院のスピーカーは 事務局長の鶴田光樹氏。第1印象は事務局長にしては若い。結論から言うと、とても参考になるお話で参加して良かったと思いました。 上述の通り、昭南病院のある曽於市の人口は39,538人。65歳の割合が34.8%でやはり若者が町に残らないらしい。職員の50%が30分以上かけて通勤しているとのこと。
そのような環境で昭南病院が取り組んでいることは年齢に関係なく働きたい人には働いてもらい、長年会社のために働いてくれている職員を大事にするということ。『70歳雇用への取り組み事例』というディスカッションだったのだが、60~64歳の職員が18名、65歳~69歳の職員が2名と60歳以上だけで7%を占めている。さらに驚くことに70歳以上が5名もいるとのこと。さらにさらに驚くことに最高齢は勤続64年の82歳だというではないか。鶴田事務局長いわく「我々の業種は労働集約型なのでやってもらうことはいくらでもある」とのことで、その職員さんは通院送迎バスのコース表を毎日作ってらっしゃるそうです。64年も勤めていれば、誰の隣に誰が住んでいるとか、誰の家の次には誰の家に行けばいいとか頭に入っているのでコースを作るにはうってつけなわけです。元々、この方は看護師さんだったらしいのですが、看護師として働くのが難しくなった後も働きたいとの希望があり今の仕事をしてもらうようになったとのこと。他にも送迎バスの運転手をされている方や、介護助手さんの方などがいらっしゃるそうです。
ただ定年を設けず働いてもらうだけでなく、長年貢献してくれた職員を大事にしている点も印象的でした。定年後再雇用を考える際に60歳定年とし再雇用で65歳まで雇用するが賃金は定年時の給与の◯%をカットし、嘱託職員として雇用としている企業も多いと思われますが、昭南病院では賃金のカットもなければ賞与も出すとのこと。基調講演でおもいっきり「若年者層のためにあなたの給料の一部をカットさせてください」的な話があったので笑っちゃいましたが、なぜそれができるのか。その背景にはカットした賃金分を回す若者がいないということもありますが、長年会社に貢献してきた職員を嘱託職員にし、賃金をカットすると他の職員はやはりそれを見ているわけです。「あぁ、自分も60歳になったらああいう扱いされるんだな」と思いますよね。そうではなく、貢献してくれた職員を大事にすることで「自分もあの人みたいに高齢になっても活躍したい」と思えるような土壌を作っているわけです。新しい職員を雇わなくてもいいように入職した職員が会社に愛着を持って働いてくれるような環境を作っているわけですね。
その結果どうなるか。永年勤続の表彰式が行われる際、若い職員が"勝手に"高齢の職員のためにムービーを作ってくれたり、先の最高齢の職員が免許を返納した際に誰に頼むでもなく次の日から他の職員が代るがわる送迎をするようになったそうです。この免許の件には非常に感動しました。
鶴田事務局長は「CS(顧客満足)よりもES(職員満足)が優先」と話されており、この言葉自体は目新しいものではないものの、ここまでそれを実践しているということを目の当たりにして参加して良かったとしみじみ思いました。
3社の事例発表終了後、シンポジウム形式の時間に進行の方の「何か工夫されている点は?」「とはいっても何か大変なことがあったんじゃないですか?」の質問に「高齢者だからとかではなく当たり前のことをやっているだけなので特にないですね」との進行泣かせなコメントに可笑しく思いながらも感心せずにはいられませんでした。
若い職員の年配の職員に対する「○○さんは仕事をしない」などといった発言を聞きながら、いつも思うのは「じゃあ、君は歳取ったら今と同じように働けるんだね」ということであり「自分が思うように仕事ができなくなった時にどう感じるだろう」ということだ。もちろんそれはそういった発言をする若い職員の責任ではなく、そういう環境にしてしまっている会社の責任が大きいだろう。「高齢者だから」「障害者だから」「パートだから」「うつ病だから」などと言っている内は、職員が愛着を持って働いてくれるような職場にはなりえない。普通の(というのがどういうのが分からないが)職員の間でも得意・不得意はあるし、適・不適もある。それぞれが自分に与えられた職務を全うし、お互いにそれを認め合えるような職場。そんな職場にしていかなくてはならない。いや、する。