南日本新聞 書評欄「郷土発おすすめ」 能瀬と読書 能瀬の読んだ本

2014_044 鷲田清一監修、カフェフィロ編『哲学カフェのつくりかた』

(2014年8月10日南日本新聞 書評欄「郷土発おすすめ」)

思考見つめなおす対話

「哲学カフェ」という言葉を聞いたことがあるだろうか。1992年にフランスで始まり、日本でも2000年頃から開催されはじめ、現在ではインターネットで確認できるだけでも全国各地約50カ所で定期的に開催されている。何をする場かというと「進行役がいて、あるテーマについて、その場にいる人が対話を通じて考える」ただそれだけである。

本書は大阪大学臨床哲学研究室の教員や院生を中心に05年に結成され、哲学カフェを含む対話ワークショップを展開している任意団体カフェフィロのメンバーによって書かれたものである。開催してみたいという人に向けたQ&Aに始まり、各地で行われている哲学カフェの記録、本を題材にした書評カフェや絵画について語るミルトークなど派生企画の紹介、カフェフィロメンバーによる考察がまとめられている。

ただその場にいる人とテーマについて話をして考えるだけの哲学カフェの魅力は何か。あるメンバーは自分の主張を通すためのコミュニケーションであるディベートと違い、自分の意見の前提を吟味することで自分の考えも相手の考えも変わっていく、そのダイナミズムにおもしろさがあるという。

また他のメンバーは「哲学カフェは、肩書や形式がなければ他人と話すことができないという思い込みから開放されて、思ったことを率直に話し合える『リハビリ』の場所」であるという。日常の心地良いコミュニケーションから離れ、何者かも分からない人たちとの「びっくりするほど話が通じない」という状況の中で、他者の言葉に耳を傾け自分の考えをわかりやすく伝えようとする、そのプロセスを通じて自分自身の思考を見つめなおすことができる。

私も哲学カフェの魅力に取りつかれた一人だが、なんといっても一番の魅力はライブ感である。その場で織りなされる対話は、一度きりのセッションといったところで、毎回新鮮な発見がある。是非、本書で哲学カフェを疑似体験していただきたい。

2014年6月15日 初版
出版社:大阪大学出版会
344ページ
ISBN-10:4872594673
ISBN-13:978-4872594676
絵:江口桃魚
装幀:久保田テツ
口絵写真撮影:吉田亮人

Café Philoのブログで紹介されました。

Café Philo diary: 南日本新聞に『哲学カフェのつくりかた』の書評が掲載されました。
http://cafephilo-diary.blogspot.jp/2014/08/blog-post_21.html

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