(2013年12月22日南日本新聞 書評欄「郷土発おすすめ」)
事故の風化防ぐために
タイトルを見て、まず何を感じるだろう。妻に尋ねてみたところ「悪ふざけ」「ブラックユーモア」と答えが返ってきた。「観光地化」という言葉に対する違和や嫌悪感の表れであろう。
このような反応を想定した上で、あえて「観光地化」が用いられている。それは福島第一原発で起こった事故の風化を防ぎ、少しでも多くの人に現地を訪れてもらい、それぞれの関心や価値観で是非を判断してもらうことを目的としているからだ。
本書では、まず福島第一原発周辺地域の取材を基に、被災者による自主的なツアーという形で「観光地化」が始まっている事実を示し、それを制度化するための具体的な提言がなされている。そして事故後25年の2036年を目標に、より多くの人に現地を訪れてもらうための構想が紹介され、それらが実現可能なのかといった点について専門家の声が寄せられている。興味深かったのは、メルトダウンした炉心の処理方法について、ある専門家が石棺化は絶対賛成できないと述べている次のページで、別の専門家が石棺化して未来に託そうと提案している点だ。ひとつの答えを出すことが目的ではないという信念の表れであろう。
事故跡地見学の拠点として「ふくしまゲートヴィレッジ」の建設が提案されており、ここには学びの場としての博物館などに加え、ビーチやショッピングモールといったアミューズメント施設も計画されている。「不謹慎だ」との声が聞こえてきそうだが、人間は忘れやすく軽薄な存在である。その軽薄さを利用してでも「見たい」場所にするべきというのが本書の主張である。
ぜひ、先行して出版された「チェルノブイリ・ダークツーリズム・ガイド 思想地図β vol.4-1」と併せて読んでほしい。もちろん、読んでなお「観光地化には反対」という方もいるだろう。そのような声をどんどん挙げてほしい。その声こそが事故の風化を防ぎ、議論を進める本書の目的につながるはずだ。
2013年11月20日 第1刷発行
出版社:株式会社ゲンロン
192ページ
ISBN-10:4907188021
ISBN-13:978-4907188023
カバー表紙:梅沢和木