南日本新聞 書評欄「郷土発おすすめ」 能瀬と読書 能瀬の読んだ本

2015_006 フィリップ・ヤノウィン『学力をのばす美術鑑賞 ヴィジュアル・ シンキング・ ストラテジーズ: どこからそう思う? 』

(2015年2月8日南日本新聞 書評欄「郷土発おすすめ」)

観察、対話感性磨く

「美術」に苦手意識を持ち始めたのはいつだろう。図工・美術だけはひどい点数だった。テストは「この作品の名は」とか「この絵画で使われている手法は」といった知識を問うものばかりで、いかに鑑賞するかを教えてもらった記憶はない。

知識偏重型の指導に対する試みとして開発された学習法が、ヴィジュアル・シンキング・ストラテジーズ(VTS)である。芸術作品を鑑賞し、教師が発する問いかけに対し、自分の考えを述べる。問いかけとは①作品の中で、何が起きているか②どこからそう思ったか③もっと発見はあるか―の三つだけ。一作品15~20分、それを2、3回繰り返す。そうした授業を年に10回行うだけで「鑑賞能力」が身につくという。

子どもたちはVTSを通じて自分の考えを発言できるようになり、経験を重ねるうちに質問をしなくても自然と根拠を述べるようになるという。例として、男性と子ども2人の絵を見てそこには描かれていない母親に想像を膨らませる発言や、父親が「へん」と感想を述べた絵に対してとても豊かに表現する様子が紹介されている。また、人の話を聞けるようになり、他の教科の成績にも良い結果をもたらしたという報告もある。通信販売の謳い文句のように良いことづくしだが、VTSが効果を発揮するには教師の役割が非常に重要である。

教師は交通整理役として、指差しやパラフレーズ(言い換え)、リンク(発言を繋げる)を使いこなし、3つの質問を繰り返すことで発言を促し、基本的に発言の修正や正解の提示は行わない(そもそも正解はない)。

実は、日本でも「対話型鑑賞」という名前で実践されている。当初は「奥ゆかしい日本人にはできない」と批判されたそうだが、トレーニングを受けた学生達が実践を重ね、そういった批判もなくなったという。

ぜひ個人でもVTSを実践してほしい。私も学校の成績は落第点だったが、鑑賞者としての及第点を目指して挑戦してみようと思う。

 

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