2022年
11月
- 素晴らしと彼が褒めしは君なれど我が子のように言ふ「そうでしょう」
- ハナタレの流行病(はやりやまい)で久方の大型連休我が家に来たり
- 暗黒の川沿いをただひた走るそのまま夜に吸い込まれてけ 23.07.28_南_高
- 三人の家族で二人コロナなる熱を測るも毎度の六度
- 黒い人怖くて見れる君が今コナンは皆に人気だねと言ふ
- 長期間休んで思い知らされる社会はまわる我おらずとも
- 戸一枚隔てて眠る子が我のZOOMの声を子守唄とす
- 国勝ちて明日は休もう皆が言うなれど私は週休七日
- 一晩で十度厠に目覚めるはコロナのせいか 否、歳のせい
- 体重も背丈も同じひょっとして日本代表僕もなれてた?
- 治ったと浮かれつ走る十五キロ 三度曇るは我が肺と空
- 日本語を学ぶあなたと日々話す時間は家族よりも長きに
- 「継続は力なり」この六文字を信じ努力する三十九まで
- 苦します鏡に写る消せぬ顔君がくれしは普通の暮らし
12月
- 離れ行く君の心を知りながら素知らぬ僕は人にあらずか 23.06.27_南_永
- ありがとうあなたの顔見て言いたくも灰にならねば会わせてもらえず 23.07.28_南_永
- 肺炎になりかけて知る寝る前の歯磨き大事僕はアラフォー
- いいですよ二つ返事も忘れてたかたや記念日かたや駅伝
- 受かったら会えなくなると君が言う試験がふたりを繋ぐ鎹(かすがい) 23.07.20_南_小
- 親不知(おやしらず)痛くて仕事やる気出ず誰かテンション上げてプリーズ
- 短歌なら何を言っても許される勘違いして荒ぶるは脳
- 「その本は持ってますから貸しますよ」電子書籍じゃできぬ嗜み
(2023年1月26日南日歌壇 選者:小島ゆかり先生) - 好きな子が好きなもの皆知りたくて試してみては知った気になる
- 「スタートは気が急いちゃうから見ないでね」言いついつものロケットスタート
- Twitterいいねがついて嬉しいなと思うといつもスパムばかりね
- 高い金払ってどうして走るのか標(しるべ)と刺激を得るためかしら
- 心肺も足もまったく痛くないなのにどうして歩いちゃったの
- 悩みごと増えれば増える我が白髪何より確かなストレスチェック 23.07.20_南_永
- 才能がないと分かっていればこそ何も恐れず書ける楽しさ
- 「実は僕昔サッカーしてたんです」四年に一度だけ思い出し
- コツコツと書き留めしこのメモ帳に溜まるあの日の私の涙 23.06.27_南_永
- 満たされし我が口からは言葉でず人としてなおつまらなくなり 23.07.20_南_永
- 外に出たいや出てないと白黒のボールをめぐる場外戦
- 「嘘つき」の台詞(ことば)に君が怒るのは誰より僕が嘘つきだから 23.07.28_南_小
- 多様性分かった顔して誰よりもその腹の中渦巻く差別 23.01.13_南_小
- 喧嘩してこのまま事故で死んだなら君はごめんと言ってくれるか 23.01.13_南_小
- 張り切ってウェア着て寝るも寝坊する罪悪感を流す大雨
- 夜の空輝く君が消えたなら明日から何を見上げたらいい 23.07.20_南_小
- 「久しぶり!」昨日も会ったはずなのにそんなに会うの待ち遠しかった?
- サンタから暇な私にプレゼント聖なる夜に会社にいマス
- 金浮かすために前売り買ったのに自県で演らず浮かない気持ち
- 「父母の喧嘩の原因僕のせい?」思うどころか「喧嘩してたの?」
- 気に入りのシャンプー使い髪洗う「おじさんくさい」言われ台無し
- ラーメン屋隣の席で昼間からビール飲む女(ひと)グッと惹かれる 23.07.28_南_高
- 家庭科の長期休みの宿題で息子が作る豚汁の味
2023年
1月
- 新年の目標立てて叶えても数年経てば人生終わる
- 孫に会い6位の祝いを渡す父グランドゴルフの優勝自慢す 23.07.20_南_高
- 大好きな人が薦めしものに触れ自分の中にその人を飼う
- 久方に語りし友の手術跡見ては己の余生を憂う 23.01.27_南_高
- やなことを先延ばしにし年明ける正月休み永遠に続け
- 在学時話した記憶なき君と文交わす日々縁は異なもの 23.01.27_南_高
- 「母料理、父グラウンド」いい加減そういうのもうやめたらいいのに
- いつだって困ったときに声かける後輩なのに頼れるあいつ
- 土触り轆轤を回し自惚れるできた器はほぼ師つくりし 23.07.20_南_高
- 引退し何をするでもない父のモチベ上げるは野球する孫
- 以前より手話習いたい思いしが口閉ざしますドラマのせいで
- 喧嘩して腹が立ったら無視をする変わることない三つ子の魂
- WEB会議画面に現るドングリの形の自分見ては噴き出す
- 洗濯を干してる短い時間だけ話してくれる居間で眠る子
- 公園でデートしている高校生恥ずかしいからあっちを向いて
- 「なんだかね開き直った感じなの」君の強さが僕は好きです 23.08.10_南_小
(2023年9月14日南日歌壇 選者:小島ゆかり先生) - 新しい知識を知れば知るほどに自分の意見何処へと消ゆ
- 信じたいそんな気持ちと裏腹に疑う心が僕苦しめる
- 年明けて今年こそはと気合い入れしばし読書家一月坊主(ひとつきぼうず) 23.02.09_南_高
- うたよみんサービス終了いうなれどうたよむこころ終わることなし
- 「聞いてない」どれだけそばで話しても聞く気なければ聞こえはしない
- 「息子にも野球をやってほしかった」親父の夢は孫が叶えし
- emptyなってからの生命力まじハンパないだるまストーブ
- 「お父さん?私てっきりお兄さんかと」んなわけもなく嬉しくもなく
- 大雪が心配になり早帰り心配になりまたすぐ出社
- 一度だけ酔ったふりしてDMを送ってみようかあの日みたいに
- 「こんな雪降ったうちには入らない」そういう君は野分に騒ぐ 23.02.09_南_高
- 後ろからノーブレーキで突っ込んだ爺さん怪我してまるで加害者
- 「ごめんなさい。でも、能瀬くんいい人だから…」フラれ文句に続く沈黙 ⇒
- 「今後からひとりで寝る」という息子よりもお先にひとり寝る妻 ⇒
- 「能瀬さん目にほくろあるんですね」って言うほど俺の顔を見てたの? ⇒
2月
- 手がかかる異国のスタッフ憎めない理由は顔がうちのばあちゃん ⇒
- 福岡へ向かう序盤に覆面に捕まり二時間気まずい車内 ⇒
- 営業の電話の社名きらきらで取った子照れて教えてくれぬ ⇒
- 「四年前?」「確か七年前のこと」記憶狂わす空白の三年 23.02.24_南_永 ⇒
- 選ばれし者だけ走る競争を完走したるは夢と霞みし ⇒
- 「あのドラマ舞台がえびのなんだよね」教えくれしは架空の貴方 ⇒
- ベトナムで初対面の鍋囲む君はホテルでひとりパン食ふ ⇒
- 「惚けたふりするのも楽じゃあないわ」と孫へとぼやく二人の車内 23.02.24_南_永 ⇒
- 突然の父からの電話身を案ず手紙の速度で届く返信 ⇒
- 出し抜けに黒い稲妻鳴り響き私の前歯再び欠ける ⇒
- 君がいつも頑張ってるの知ってるでも「頑張れ」以外何を言わんや 23.08.10_南_小 ⇒
- 産み落とすイオンタウンがこの街に帖佐駅から歩くティーンズ ⇒
- 鋏持つ君の独立待ち侘びて我が前髪はけふも伸びゆく 23.08.10_南_永 ⇒
- 昼食にやむなく入った刀削麺あの日の火鍋フラッシュバック
- 耳かきの好きが高じてもう二年鳴り止まぬ音いざプレーボール ⇒
- 気を利かせ焼き菓子渡すバレンタイン「次長ひと月間違えました?」 23.03.10_南_永
- 旅先のふたりの中を引き裂くは「10キロ先まで直進です」
- 「大丈夫、今日会えなくてもいつかまた」決して来ないいつかをば待つ 23.08.10_南_永
- 快音を鳴らし白球君に飛ぶ祈りとともに止まる心臓 23.03.10_南_永
- 君がまた夢に出てきてしまうからもう現では会うことないのに 23.07.28_南_小
- 寝る前に明日の夕餉を決めるのは君がふたたび消えないように
- 我が背中真っ赤な生傷絶えざるは牛肉、牛乳、卵の恨み
- 「誰とでも友達なれる」言ふ君は孤独な父を反面教師に
- どうせすぐピザついた手で触るのに「ほぼ新品」をメルカリで買う
- 「あの時に手を出しててくれてたら」そういふことはあの時に言へ
- 我が健康案じてくれし隣人の訃報を告げるワタミの宅食
- 読書してひとりで過ごす喫茶店氷が溶けて水の量(かさ)増す
- 「ネパールの平均月収十二万」「変わらんじゃんね」「いや、年収だ」
3月
- 君からのメールが途絶え家行けばポールスミスを鬼に裂かるる
- 大好きな人と人とが出逢うとき世界の真ん中いるのは私 23.03.24_南_永
- 目の見えぬ君に言われし「良い声ね」ボクが悪人だとは知らずに
- 「この車朝からちょっと臭いよね」オナラした?否、朝はしてない
- 左手と君の右手が触れたまま一人になりて42.195km(しにいくこ)征く 23.08.10_南_高
- 客室の窓から見える白波の看板の光「眠らせてくれ」 23.08.10_南_高
- 「あのね今日、こんなことがね…」もういない心の中で君に言ふ日々
- 「あ、てっきり花粉症かと思ったよ」「俺どんなシーンでも泣けるよ」
- 駆けつけて視線の合わぬ父を見て暗い廊下に響く静寂 23.07.28_南_永
(2023年8月24日南日歌壇 選者:永田和宏先生) - ねぇ何で僕にも味噌汁かかってる卒業したら県外に出る
- 爪のない人差し指よ左足「赤いペディキュア塗ったみたいね」
- 震災の年に生まれし我か息子 暗い、寒いを羊水の中
- 去年までゴーヤにエンドウなりし庭 主(あるじ)はいづこ桜だけ咲く 23.03.24_南_永
- 見えていた頃に見ていた桜島 瞼に浮かべただひた走る
- 咳止める為に舐めてるのど飴を舐めすぎて飴舐めると咳出る
- 毎朝の車通勤季節(とき)の風刹那に流る車窓の端に ※Instagramストーリーでの返歌
- 髪型が変わっただけで「大学生?」聞かれる僕はベンジャミンバトン?
- センバツの春やペナント秋冬は駅伝染まる 我が家のあはれ
- あなたには幸せになってほしいなんて嘘 勝手に他所(よそ)でくたばっててよ 23.04.15_南_永
- 初心者の良いと悪いの詰め合わせ ヒットの後の即牽制死
- 画面越しギュッと瞬きする癖があの子に似てて愛おしくなる
- 住む世界違うあなたがモニタから僕に返事をする世界線
- 後輩の「勝ちましたね」に「そうなの?」と素知らぬ顔でキーボード打つ
- テレビから聞こゆスタンドラッパの音「あぁ日常が戻ってきたな」
- 一球で運命決まるこの姿WACKに重ね握る拳を
- 難しい走塁決めた君は言う「いつもパワプロでやってるから」
- 体験で作った湯呑み小さくて「エスプレッソ専用カップね」
- 我を呼ぶ二人称がanhからchúへと変わり老い噛み締める
- シナプスと打ったつもりが品薄になって広がり持たなくなって
- ナビが言う「道に迷うと燃料を無駄に消費します」知ってる 23.04.15_南_永
- 桜咲く頃になりしも繰り返しテレビに映る箱根駅伝
4月
- 桜咲く仕事ゆく道ふと見れば並木の先に桜色カー
- エイプリルフールの嘘と知りながら楽しめるよな大人(ひと)になりたい
- 三塁打うったことよりフォアボール選んだことを喜ぶ色気
- 新しき仕事始めた君のいう「死ぬかと思った」会うまで死ぬな
- お裾分け嬉しいけれど面倒なナンバーワンは皮付き筍
- 葉桜を照らす街灯照らさるる黄緑の葉と桃色の花 23.05.02_南_永
- たけのこを貰ったときだけ食卓に姿現すやさいピーマン 23.05.02_南_永
- 大好きな君の息子の誕生日教えてくれるWEBカレンダー
- 恐るべし 泥酔しても帰り着く我ら備えし帰巣本能
- 短歌読み手話始めようとする私 はたから見ればまるでミーハー
- 連日の君とのLINE不安なる君は連絡嫌いなはずじゃ
- いつだって新しきこと出会うとき胸に聞かるる やるかやらぬか
- 「ねぇ君もどうせいつかは死ぬんだよ なのにどうして」「だからこそだよ」 23.05.19_南_永
- 締切のキワのキワまで粘る君イチゴ最後に食うタイプでしょ
- さよならを言える別れの多さより言えぬ別れのなんと多さよ
(2023年6月22日南日歌壇 選者:永田和宏先生) - 三十年前も昔に追い越した祖母の背丈を息子が超えし
- 「大丈夫」の予測変換「大好き」とiPhone(お前)は何を予測してるの?
- 三年の流行りは過ぎて新しき顔のあなたに人見知りをす
- いつだかのメモに「ワカメが増える夢」回想できぬ深層心理
- どうせすぐ君を忘れてしまうんだ だけどおそらくその方がいい
(2023年7月13日南日歌壇 選者:永田和宏先生) - 「ねぇあなた四十歳には見えないよ。K-POPアイドルには見えないけど」
- はじまってしまえばいつか終わることしりつはじめるほかなきぼくら
- 二週間前まで一度も勝ってない なのに突然優勝WHY?
- キャプテンのバットが静かな間だけ四番に座る背番号12(すぴぃどすたぁ)
- 「端末の名前教えてもらえます?「(パソコンの名前?)付けてないです」
- 毎年のバリウム検査で思い出す 白い血垂らし出てくる狸
- 毎年の検診我を悩ますは「二十三歳痔疾患放置」
- 「ねぇ鳩に餌やったらダメだよ」「ソダッタハトヲヤマニハナッタ」
- (知覧のそば茶屋にて)かの国の隣の席に通されて大根そばを啜らずに食ふ
- 週末に野球の応援行きすぎて移動するとき小走りになる
- 整った顔の君みてふと気づく「そんなに太く濃い眉してた?」
5月
- (2009年博多にて)「さざんぴあ」プロレス目指し1時間歩いた先は老人ホーム
- 一郎のインスタライブ眩しくて鼻毛を抜いてバランスを取る
- いつだってクールな君を野球だけ誰より負けず嫌いにさせる
- パワプロで大声出して激怒する(おこる)君 自分は甘やかされてるくせに
- 夢の中溺死する僕見つめてた死んでく僕を僕が見つめる
- さようならこれで最後と繰り返す瞳(め)から零るる涙はどうして
- 「興奮で眠れないかも」そんな夜 普通に寝れた零時に寝れた
- あらこんなところできみにあえるとはしらぬいちめんしっていってん
- あと一度だけしか会えぬ現実を見ぬまま五十四日が過ぎゆ
- 教卓を見つめる六十個の瞳 換気扇だけ声を発する
- あいびきに隣で踊る僕を見て君はいったい何を思うか
- この命夢だとしても覚めるまで生きて夢なら覚めないでくれ
- 「それぞれができることから少しずつ」夜の洗濯我の日課に
- 二十五歳(にじゅうご)に貰いし君の苦しみが手帳の背から返さへといふ
- 「ひとりでは走りに行く気が起きないんだ」言い訳にしちゃあからさまかな
- 無駄なもの一切置かぬ我が家ではいつか私も断捨離さるか
- 午前九時国際線のゲート前 最敬礼で言ふありがとう
- 最寄り駅まで娘を送るテンションで車で向かう福岡空港
- そっけない別れの方がきっといい僕らはきっとまた会えるから
- 子どもらと白い球追ふ丸二日 八月色に焦げる我か肌
- 「今の僕じゃなくなるのが怖いんだ」「だからね、人は忘れるんだよ」
- 「じゃあ何のためにあの人いるんですか?」そういうあなたは何がために
- たぶん僕なんていなくたっていいずっと知ってたそんな気してた
- 夢占い大量の蚊はストレスで ほんとに出る蚊はもっとストレス
- 半年で齢四十になりにけり残すところは下り坂のみ
- 夏至前に川沿い歩く夕刻に残り何分君の顔見ゆ
- 子どもらにお兄ちゃん先生呼ばる日々我四十なりもはやおじさん
- キサラから武道館経てドーム立つ名前に負けぬ華やかさ持て
- 僕を見て「眼力がある」君がいう 君を見るときだけじゃないかな
- 大変な仕事させらることよりも役割なきこそ辛きこと知れ
- 誰かをか悲しませてはいけぬかを忘れたふりす初夏の満月
- 推しが吾に返信くれる世界線リプ要らぬから健やかであれ
- 週末が来るたび焦げる我が肌よ 闇夜で会えば透明人間
- 毎週の君との時間楽しくて でも待ち侘びてはいけぬとも知る
- 夢にまで推しが出てきてしまうほど僕はオタクになっちまったよ
- 冷静な君が試合の時見せる負けず嫌いと熱い姿よ
- 近頃はその日その日が忙しくてバイトまみれのあの頃おぼゆ
- 大海に出てこそ分かる井の中にいた方が実は幸せなのでは
- 何故にこの歳になってまで試さるる場に飛び込むの 死ぬだけなのに
- メルカリで買った小説から香る匂いはなぜか実家と同じ
- 子とふたり球追ふ思川公園 あの日の友と自分が笑ふ
- 空白の三年だとか云ふけれど ただ確実に死に近づいた
- にわか雨 週に一度の楽しみを何故にお前は流してしまう
- 思春期が母から離れて寝るといい真ん中長い我が家の川の字
- 翌日にサイゼの約束した後にジョリパで何を頼むか迷う
- 道の端話す女性の声聞こゆ「それがみんなの幸せやんか」
- 一年に一度だけでも会えるなら落ち続けるのも悪くないかな
- 画面から飛び出した君大きくて緊張ゆえに方言になる
- 許せない「愛がなんだ」のテルちゃんを料理で指切る君思い出す
- 待ち時間君の勧めし喫茶店(カフェ)へゆく我が衣手は煙草の匂ひ
- 田舎道ハザード灯す暗闇で誤解すホタル未来予想図(Ⅱ)
- 一でいい旅行カバンの本の数行きは読むけど帰りは寝てる
- 体調が優れぬ日には受付の君が必ず「気圧が低い」
- ヤジ飛ばす声にあの日の父宿る(父は生きてる応援に来てる)
- いつだってその大切さ気づくのはあなたのことを失ってから
- 何をする気にもなれないそんな夜 あと二日後には解散してる
- 今はまだ会えなくなると思えずに君の姿を泣けずに見てた
- 一度きりあなたが見せた泣き顔を忘れぬように僕は生きよう
- もう二度と会うことのない道産子の君が振り向き「楽しいですね」
7月
- 三田線の中で見上げた路線図の本蓮沼が心を乱す
- 行かなくちゃ君が前見ているならば止まってる暇どこにあろうか
- いつだって全身全霊届けてたあなたはいないでも進まなきゃ
- パラサイト君に依存すこの僕を殴っておくれ狂ったように
- そのままでいいよと君は言ふけれど少しの間青さ隠して
- 届かないふたりの間存在す言葉ひとつの数ミリのずれ
- 一番は君にあげよう僕はただ君に寄り添い生きていければ
- 変えちまえたかが運命なんてもの君の力で思うがままに
- 勝負服身につけるのは朝食の後にしようねジャムつけるでしょ
- 戦場の降水帯をかき分けてあなたに会いに負けてたまるか
- たぶん僕なんていなくたっていい 悟ってからがほんとの人生
- エゴでない愛がこの世にあるのなら教えてほしい「それ愛ですか?」
- 見たくなきものを見ぬため目を瞑る倅に胸を撫で下ろしけり
- もうこれでバイバイしよう言ふあなた朝目覚めたら忘れてますよに
- 「父ちゃんの声デカすぎてまるでカバのあくびたったよ」お前カバの子
- 降りるときお釣りいいです言うことが粋だと思う吾(あ)昭和の残党
- エアコンは我が部屋にのみ無きにけり隣の居間の冷気を貰ふ
- 我か人生小説よりも奇なれどまさかすべてが夢じゃないよね
- じゃあねまた くらいでいいよ僕らには積み重ねてきた時間があるから
- 夢の中蒲生(かもう)の町に駅ありて遅刻した僕タクシー乗ってた
- 「夏休み家でゆっくり休んどく」言った端から遊びに行った
- 陰のない校庭並ぶテント群 キャンプしないでかけっこ見なよ
- ワイパーに黄色い銀杏 梅雨明けたばかりで秋にタイムスリップ
- 「にわにはにわにわとりがいる。いや、いた」昨夜祝いの席に並んだ
- 「稲庭と稲庭風のうどんとは何が違うの」胃に入りゃ同じ
- いつのまに妬かなくなって実感すときの流れと君へのおもい
- しんしんと流れを止めて貴船川あなたがここにいてくれるよに
- 暑すぎてなあにもする気がおきぬ秋になるまで冬眠したい
- 「日中は外出を避け過ごしましょう」鳴り響くなか球を追う子ら
- おぼろげな君の笑顔を浮かぶれど雲に隠れて見えざりにけり
- (栗野にて)軒先でお茶とお菓子と沢庵を出され忘れていたもの懐(おも)う
8月
- 本当のあなたがどうであったとて我が目に映るあなたがすべて
- 食べ切れぬほど大盛りのそうめんが大熊町の幼き思い出
- 年に一度集まり交わす思い出と黙って遊ぶ思春期の子ら
- 僕たちが未来へ向かうそのために走ろう何も変わらなくとも
- 大学の皆の思い出我おらず グループLINEに思い知らさる
- あの頃はまさか自分が本物のオタクになるとは思わなんだよ
- 頑張れぬ我が何よりすべきこと 早く布団に入り眠らん
- 「あのね今日、こんなことがね、たったんだ」言える相手に言える幸せ
- 台風の最中飼い犬散歩する母子横目に車走らす
- ひとごころ詠み手振る舞うべきといふ読んだこころはたれのこころぞ
- 2三振セカンドゴロを挟んでの2三振です 寝て忘れよう
- ミント入り君のレシピの春巻きが僕の口内連れてくる夏
- 推し(きみ)を見る機会が増えれば増えるほど嬉しくもあり淋しくもあり
- ウィンカー出さぬ原付大惨事サンドウィッチにして食べようか
- 若者とおじさん間を伝書鳩するだけわれ中間管理職
- モブキャラの僕に唯一できるのは地味にレベルを上げることだけ
- 飲み会の裏のひとりで勉強す相応しいのは何れか知らん
- 指文字のチュロスをちくわと読み違え 夢の国(そこ)で竹輪は咥えないでしょ
- あの頃は僕がご馳走してたのにいつもまにやら奢られる側
- 急に来る台風(あらし)のごとき怒りには息を潜めて過ぎ去るを待つ
- 朝五時に家を出るため寝ぼけてて髭剃り忘る君に会うのに
- 人生に飽きてる場合ではないの行きたい道は自分で作れ
- たとえもう皆にいらぬと言われても毎日笑って過ごせればよい
- 「それこそ」が口癖のひと多すぎて それこそ話に集中できぬ
- 起き掛けの微睡みのなか詠みし歌 二度寝の夢に置き忘れくる
- 二度寝の夢 仕事ばかりで休まらぬ寝るときくらい忘れさせてよ
- おやすみを言わずにLINE終わるのが明日も話したくなるコツ
- 好物の豚カツあまり喜べぬ理由は昼にたらふく食べた
- アドレナリン(期待ホルモン)出すために今日も自分を買い被りたい
- 僕もあのイケおじみたいになれるかな 無理だよ先立つものがないんじゃ
- 五の手話を五十と間違え半世紀前から昼食プロテインです